豊熟した妖しさ



豊熟した妖しさ

「あ、あの……」

 

「はい」

 

寛は、落ち着き払った声で答える。

 

「え、煙突屋さん、ですか?」

 

寛は、加古井夫人の顔を見た。

 

少し垂れ気味の大きな目が印象的だ。

 

エラが張り気味なのも、見ようによっては愛嬌ととれる。

 

「……はい」

 

寛がうなずくと、加古井夫人は安堵の表情を見せた。

 

代わりに頬がみるみる赤く染まっていく。

 

「じゃ……」

 

ティーラウンジとは別の方向に歩き出した加古井夫人に、一瞬寛は虚をつかれた。

 

あわてて追いかける。

 

早足の女を待っていたかのようにエレベータの扉が開いた。

 

寛も、ダッシュで後に続く。

 

「あの、これ……」

 

寛は領収書と名刺を取り出す。

 

「とく、のう、と読むのですか?」

 

名刺を見て、加古井夫人が聞く。

 

「はい」

 

寛が答えると、今度は領収書を見て

 

「営み・ヒーリング・サービス『株式会社煙突屋』というのも、面白いお名前ね」

 

と独り言のようにつぶやいた。

 

13階でエレベータの扉が開き、加古井夫人はまた早足で歩いていく。

 

廊下の奥の部屋の前に着くと、さっとキーを取り出し、滑り込むように中に入る。

 

寛が後に続くと、背中を向けて、加古井夫人はベッドの脇に立っていた。

 

手提げバッグは、投げ捨てられたように床に落ち、英字新聞が完全にはみ出している。

 

今まで必死に抑えていたのだろうか、大きな呼吸音を立てて、肩が上下している。

 

「ねえ、この躯をどうにかして。

 

お願い」

 

これまでとはまるで人が変わったような、扇情的な声だ。

 

ニットを脱ぎ捨てて寛の方を振り返った加古井夫人は、すでに肉欲の虜になっている。

 

柔肌を惜しげもなくさらけ出し、寛の気を引くように悩ましげに腰をくねらすと、スカートもはらりと落ちた。

 

深緑色のインナーだけとなった加古井夫人の躯は、豊熟した妖しさを発散している。

 

「早く、抱いて。

 

無茶苦茶にして」